コレステロールを下げる薬の効果と副作用を徹底解説

脂質異常症
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コレステロールが高いと言われている方へ

健診や人間ドックでコレステロールが高いと言われているあなたに、薬のメリット、デメリット、そしてどんな人が薬を飲むべきかということについて解説していきます。

 私は大学病院で総合診療医をしており、毎日たくさんの脂質異常症の患者さんを治療しています。患者さんに普段説明していることや、よく患者さんから聞かれる質問に答えていきたいと思います。

 はじめてコレステロールが高いと言われた方は、まず「脂質異常症ってどんな病気?」ということを解説したこちらの記事を読んでから戻って来てください。

コレステロールを下げる薬

今回は、いわゆる”悪玉コレステロール”と呼ばれるLDLコレステロールを下げる薬について解説していきます。中性脂肪(トリグリセリド)だけが高い人はまた違った方針となるので、別の記事を用意したいと思います。

LDLコレステロールを下げる薬の種類

薬の種類薬の名前
スタチン系製剤(HMG-CoA還元酵素阻害剤)アトルバスタチン(リピトール®), ロスバスタチン(クレストール®)、ピタバスタチン(リバロ®)、シンバスタチン(リポバス®)、プラバスタチン(メバロチン®)など
小腸コレステロールトランスポーター阻害剤エゼチミブ(ゼチーア®)
陰イオン交換樹脂(レジン)製剤コレスチミド(コレバイン®)、コレスチラミン(クエストラン®)
PCSK9阻害薬エボロクマブ(レパーサ®)

どの薬がいいのか?

 LDLコレステロールを下げる薬はたくさんありますが、基本的にはスタチン一択です。それだけスタチンの効果が高く、心筋梗塞や脳卒中を予防する効果が多くの研究で証明されているのです。

 他の薬は、副作用によってスタチンが飲めない人やスタチンを使っても心筋梗塞や脳梗塞を起こしてしまった人に使います。中には、LDLは下がるけど心筋梗塞や脳卒中が予防できるのか分かっていない薬がたくさんあります。

スタチンの効果と副作用

 LDLが高い人に薬を始めるとしたらまずスタチン系の薬から始めます。

 スタチンは、人類史上最もヒトの死亡を減らした薬の1つと言ってもいいくらいの画期的な薬です。ちなみに、スタチンを発明したのは遠藤章という日本人です。

スタチンの作用機序

 そもそも血液中のコレステロールは、食事から吸収されたものが20%程度、肝臓で作られたものが80%と言われています。スタチンは、肝臓の中でコレステロールを作るのに関わっているHMG-CoAという酵素の働きを抑えることでコレステロールの産生を劇的に抑える事ができます。そして肝臓でLDLコレステロールを回収する作用も強めるので、悪玉コレステロール(LDLコレステロール)を下げる作用がとても高いです。さらには、善玉コレステロール(HDLコレステロール)を増やしたり、中性脂肪(トリグリセリド)を下げる作用があります。まさに、脂質異常症で問題となる3つの脂質すべてを改善できる薬なのです。

 そして最も大切なのは、悪玉を減らし、善玉を増やすことで動脈硬化を改善できることです。これによって血管が動脈硬化でぼろぼろになって起こる心筋梗塞や脳梗塞を予防することができるのです。

スタチンの効果

 実際にスタチンによって、LDLコレステロールの値は、20-60% 低下すると言われています。

 LDLコレステロール値が約40mg/dl下がるごとに、心筋梗塞や脳梗塞のリスクが20%減り、死亡リスクが10%下がります。1)

 スタチンは、もともとの心血管リスク(心筋梗塞や脳卒中になりやすさ)が高い人ほど効果が期待できます。

心筋梗塞や脳卒中になったことがある人への効果

心筋梗塞や脳卒中になったことがある人は、すでに動脈硬化が進んでおり非常に心血管リスクが高いグループです。これらの人たちへのスタチンの効果を示した研究は多くあり、心筋梗塞を起こしたことがある1000人にスタチンを飲んでもらうと

  • 12人の死亡を防ぐ
  • 25人の心筋梗塞を予防する
  • 8人の脳卒中を予防する

効果があると言われています。2)

日本には173万2000人の心筋梗塞患者がいるといわれているので、この人たちが全員スタチンを飲むと約2万人の命がスタチンによって救え4万人の心筋梗塞の再発を予防できるということになります。3)これはすごいインパクトなのでスタチンは、”奇跡の薬”とも呼ばれています。

心血管リスクが低い人への効果

 どんな薬もそうですが、もともとのリスクが低い人への治療は効果が得られにくいです。スタチンはとても効果が高い薬ですが、それでももともと心筋梗塞や脳卒中になるリスクが低い人が飲んでもメリットが少なくなります

 心血管リスクが低い患者1000人がスタチンを飲むと

  • 死亡を防げるかは分からない
  • 約5人の心筋梗塞を予防
  • 約3人の脳卒中を予防

先程の心筋梗塞や脳卒中を起こしたことがあるハイリスクの人と比べると効果が低くなることが分かります。

 このことより、スタチンはなるべく心血管リスクが高い患者を選んで処方した方がいいということが分かると思います。

スタチンの副作用

 薬の副作用についても気になる人が多いと思います。スタチンの副作用として有名なのは、横紋筋融解症、肝機能障害、糖尿病の増加です。しかしながらスタチンは非常安全に使える薬ですので、安心してください。その根拠を解説していきます。

スタチンの安全性

 スタチンは非常に効果が高い薬なのでたくさんの臨床研究が行われていますし、実際に処方されている患者さんも多いのでたくさんのデータがあります。

 その中で、計13万人の患者データを解析した結果をみると副作用によって治療を中断するケースは、スタチンはプラセボ(偽薬)と変わりありませんでした。4)このことよりスタチンは、ほぼ副作用があまり出ず安全に使える薬だと言えます。

横紋筋融解症

 スタチンの副作用として最も有名なのは、筋肉が壊れてしまう横紋筋融解症です。横紋筋融解症になると筋肉痛が出たり、尿が黒っぽくなったりします。この副作用は有名ですが、最近の研究結果からはほとんど起こらないのではないかと言われています。5)

糖尿病

 スタチンを飲んでいる人では糖尿病を発症する人が増えることが報告されています。

 「糖尿病になるんじゃ逆効果じゃないか?飲みたくない!」と思う気持ちも分かりますが、最後までお読みください。

 スタチンによる糖尿病の発症リスクの増加は約1.1倍と報告されています。6) これは、1000人がスタチンを飲むと5人の糖尿病患者増える計算になります。ここで大事なのは、糖尿病も結局は動脈硬化を起こして心筋梗塞や脳卒中になるのが問題だと言うことです。スタチンの効果を示した研究では、糖尿病患者が多少増えてもトータルでは心筋梗塞や脳梗塞は減るし、死ぬ人も減らせることが示されているのです。しかも糖尿病患者は心血管リスクが高いので、糖尿病患者においてもスタチンが心筋梗塞や脳梗塞を減らすことが示されています。

 つまり、スタチンによって糖尿病になる人は少し増えるが、その先の心筋梗塞や脳梗塞は減らせるのでトータルではメリットの方が大きいということです。

スタチンを飲んだ方がいい人

 以上よりスタチンの効果と副作用について解説してきました。効果は非常に高く、副作用は少ないまさに”奇跡の薬”だということがお分かり頂ければ幸いです。しかし、いくらいい薬でももともとの心血管リスクが低い人にはメリットが少なく、デメリットの方が問題となってしまいます。

 スタチンを飲んだ方がいいリスクが高い人は次の4つのグループです。7)

  • 心筋梗塞や脳卒中になったことがある人
  • 40ー75歳で糖尿病がある人
  • LDLコレステロールが190を超えている人
  • 10年間の心血管リスクが10%を超える人

これらに当てはまる人は、スタチンを飲んだ方が心筋梗塞や脳卒中のリスクが下がりメリットが大きいことが分かっています。10年間の心血管リスクは過去のデータから計算することができるので、是非病院で相談してみてください。

 心血管リスクが10%未満の人は、スタチンのメリットとデメリットのバランスが難しいので個別に相談が必要なので、担当の先生とよく相談してください。

 いずれにしろ、心筋梗塞や脳卒中を予防するのが目的なので、食事、運動、減量、禁煙などを行いトータルでの心血管リスクを下げることが非常に重要です。

 心血管リスクを下げるための食事運動に関してはこちらの記事も参照してください。

一人でも多くの人が、健康で幸せな人生を送れますように!!

参考文献

  1. Lipid Management for the Prevention of Atherosclerotic Cardiovascular Disease
  2. https://www.thennt.com
  3. 日本生活習慣病予防協会
  4. Meta-analysis of Placebo-Controlled Randomized Controlled Trials on the Prevalence of Statin Intolerance
  5. A systematic review of statin-induced muscle problems in clinical trials
  6. HMG-coenzyme A reductase inhibition, type 2 diabetes, and bodyweight: evidence from genetic analysis and randomised trials
  7. 2019 ACC/AHA Guideline on the Primary Prevention of Cardiovascular Disease: Executive Summary

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