こんにちは、Dr.Andyです。
日々たくさんの高血圧患者さんの診療をしている私が、今日は高血圧の薬について解説していきます。今高血圧の薬を飲んでいる方や「そろそろ薬を」と言われているけど「薬って嫌だな」と思っている方に、高血圧の薬について”正しい情報”をお伝えします。
高血圧の薬の種類
高血圧の薬には、大きくわけて4種類あります。ABCDのゴロ合わせで覚えていたりします。
- A:ACE阻害薬、ARB
- B:β遮断薬
- C:カルシウム拮抗薬
- D:利尿剤
薬を飲んでいるかたは、このお薬110番というサイトで自分が飲んでいる薬を調べてみるといいと思います。
例えばアムロジン®なら、検索して薬品名を選ぶと次のような画面にたどり着けます。

上の方に書いてある「区分」が薬の種類です。アムロジン®の場合は、持続性Ca拮抗薬と書いてあるので、Cの「カルシウム拮抗薬」という分類の薬になります。
このABCD以外にも、アルダクトン®やセララ®などのミネラルコルチコイド受容体拮抗薬や、ドキサゾシンなどのα受容体阻害薬なども患者さんによっては使われることがあります。これらの薬は特殊な場合にのみ使うので、今回は説明を割愛します。
高血圧の薬の種類ごとの特徴と副作用
ACE阻害薬/ARBの特徴と副作用
ACE(アンギオテンシン変換酵素)阻害薬とARB(アンギオテンシン受容体拮抗薬)は、どちらもレニン−アンギオテンシン-アルドステロン系(RAA系)という血圧をコントロールしているホルモンの経路に作用します。どちらも同じ経路に作用するので、効果や副作用は共通しているものも多いです。ACE阻害薬の方が古く、ARBの方が新しい薬ですが、どちらも心筋梗塞や脳梗塞を予防したり死亡を減らす効果が証明されており、効果はほぼ同等とされています。2) ACE阻害薬とARBに共通するのは、腎臓を保護する効果があることです。慢性腎臓病(CKD)の方や糖尿病の方で血圧が高い人は、このACE阻害薬もしくはARBを服用することが推奨されています。また、心臓に対しても保護作用があり、特に心筋梗塞後の心臓を保護する作用があるので心筋梗塞後の患者さんには必須の薬です。共通の副作用として、RAA系に作用することでカリウムが上がりやすくなることです。特に腎臓の機能が悪い人は、カリウムが上がりやすいので注意が必要です。血液検査のカリウムの値をチェックしてみましょう。K(カリウム)の値が5未満であれば大丈夫ですが、5を超えている場合は積極的にカリウム制限をしましょう。 ACE阻害薬に特有の副作用として、”空咳”があります。なんだか咳がずっと出るんですという患者さんの中には、このACE阻害薬が原因の方がたまにいます。この空咳のおかげで高齢者では、誤嚥が減って肺炎が減るという報告もあり、そこまで困っていなければそのまま服用を続けることをお勧めします。3)
β遮断薬の特徴と副作用
β遮断薬は、交感神経をブロックすることで血圧の上昇を抑えます。自律神経という自動で人間の血圧や脈などをコントロールしてくれている神経のうち、興奮状態の時に作用するのが交感神経です。交感神経が作用すると血圧が上がり、脈が早くなったりします。β遮断薬はこの交感神経の働きをブロックすることで血圧を下げますが、脈も下げる作用があります。β遮断薬の種類によって血圧を下げる作用と脈を抑える作用に強さには違いがあります。このβ遮断薬は、心臓の負担をとる作用があるので心筋梗塞後の人や心臓が弱っている心不全の人によく使われます。脳梗塞や心筋梗塞の予防効果はありますが、血圧を下げる効果は他の薬に比べるとお取ります。β遮断薬の種類によっては、気管支喘息や肺気腫(COPD)の患者さんには使えないので、喘息や肺の病気がある人は主治医に伝えましょう。
カルシウム拮抗薬の特徴と副作用
カルシウム拮抗薬は、血管を収縮させる筋肉を緩めることで血圧を下げる作用があります。日本で最も用いられている降圧薬で、血圧を下げる効果も高いです。副作用としては、便秘や足のむくみなどが多いです。カルシウム拮抗薬には、ジヒドロピリジン系と非ジヒドロピリジン系と大きく分けて2種類あります。血圧を下げる目的ではジヒドロピリジン系がよく用いられます。心房細動などの不整脈がある人は、非ジヒドロピリジン系のカルシウム拮抗薬を使う場合があります。ジヒドロピリジン系はグレープフルーツとの飲み合わせが悪いので注意が必要です。
ジヒドロピリジン系 | アムロジピン、ニフェジピン、ペニジピン、シルニジピンなど |
非ジヒドロピリジン系 | ジルチアゼム、ベラパミルなど |
利尿剤の特徴と副作用
利尿薬の中でもサイアザイド系の利尿薬が血圧の薬として用いられます。古くからある薬で安く、心筋梗塞や脳梗塞を予防する効果が証明されているいい薬です。利尿剤は、腎臓に働いて尿の中の塩分(Na)の排泄を促すことで体内の過剰な塩分を尿から出すことで血圧を下げます。血圧を下げる目的で使う場合には、少ない量で使うのでそこまでトイレが近くなるわけではありません。副作用として、尿酸値や中性脂肪の数字が上がったりする場合があります。
医者はどうやって薬を選んでいる?
たくさんある高血圧の薬の中で医師はどのように選んでいるのでしょうか? 基本的には”特定の病気を持っている人はこの薬がいい”というのがあるので、それに当てはまるものがないか確認します。
病気 | 優先する薬 |
糖尿病 | ACE/ARB |
心臓病 | ACE/ARB, β遮断薬 |
慢性腎臓病 | ACE/ARB |
これらに当てはまるものがなければ、ACE/ARB、カルシウム拮抗薬、利尿薬の中から薬を始めることが推奨されています。1)
血圧の薬を始める基準は?
高血圧治療ガイドラインによる血圧の薬の開始基準は次の通りになっています。
- Ⅲ度高血圧(180/110mmHg以上)
- Ⅱ度高血圧(160/100mmHg以上)+65歳以上/男性/喫煙のいずれかに当てはまる場合
- Ⅰ度高血圧(140/90mmHg以上)+リスク因子
- Ⅰ度高血圧以上で生活習慣を変えても血圧が下がらない場合
※リスク因子:65歳以上、男性、脂質異常症、喫煙のうち3つ以上、もしくは糖尿病、慢性腎臓病(CKD)、心筋梗塞や脳梗塞の既往がある場合
かなり細かいですが、単純化すると
- 心筋梗塞や脳梗塞の既往がある場合
- 糖尿病や腎臓病がある場合
- 血圧が160mmHgを超えているの場合
は、薬による治療が必要です。
血圧の基準値に関してはこちら
よくある質問
薬の強さ?
よく患者さんに「弱いのにしておいて」とか「これは強いやつ?」とか聞かれますが、基本的には、あまり強い・弱いということは医師側は意識していません。血圧を下げる効果は、薬の量によって変わったりします。血圧の薬を始めても目標に達しない場合には、血圧の薬の投与量を増やす場合と2種類目の薬を追加する場合があります。最近の研究では投与量を増やすより、2種類目を追加したほうが早く目標を達成できると言われています。
グレープフルーツはだめ?飲み合わせの問題
ジヒドロピリジン系のカルシウム拮抗薬は、グレープフルーツの飲み合わせが悪いです。これはグレープフルーツに含まれる成分が、薬の代謝にかかわる酵素を邪魔してしまうからです。
※グレープフルーツとの飲み合わせに注意が必要な薬
カルブロック®(アゼルニジピン)、アテレック®(シルニジピン)、コニール®(ペニジピン)、アダラート®(ニフェジピン)、ワソラン®(ベラパミル)
血圧の薬は一生やめられない?
これもよく患者さんから聞かれます。
私の答えは、「頑張れば薬をやめれる場合がある」です。
生活習慣を改善することが血圧が5〜10mmHg下げることができるので、これを実践すれば薬1剤分の効果を補う事ができます。実際に減量したり、減塩したりと生活習慣を改善することで血圧の薬をやめられた患者さんはいます。逆に薬を飲んで血圧が下がったからという理由で、生活習慣をあまり改善できていない人は徐々に薬が増えていってしまうこともあります。
血圧の治療は、生活習慣改善と薬の両輪が大切なので、血圧を上手くコントロールするために両方をうまく使っていく必要があります。一番もったいないのは血圧の薬を飲むのを敬遠して、血圧が高いまま放置してしまい脳梗塞や心筋梗塞になってしまうことです。脳梗塞になったらそのまま寝たきりや要介護状態になってしまうこともあるので、血圧が高いと言われている人は放置せず病院で相談しましょう!
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