【トクホの闇】胡麻麦茶は血圧を下げるのか?

高血圧
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サントリー胡麻麦茶を飲めば血圧は下がるのか?

最近トクホってよく聞きませんか?

よくCMとかでもやっていますよね。コンビニなどで売っていると気になっちゃいますよね。

患者さんからも「トクホって効果あるんですか?」とよく聞かれます。

今日は、「サントリー胡麻麦茶」を飲めば本当に血圧が下がるのかを医師である私が徹底的に考察してみたいと思います。

そもそもトクホとは

特定保健用食品マーク

トクホとは、”特定保健食品”の略です。1991年に栄養改善法で法制度化された食品で、次のように定義されています。

食生活において特定の保健の目的で摂取する者に対し、その摂取により当該特定の保健の目的が期待できる旨の表示を行うもの。

消費者庁ホームページ

 うーん。。。お役所言葉っぽくてわかりにくいですね。

 要は「国が効果を認めた健康食品」ってことなんです。

 一応注意書きとして、多重に摂取することにより、疾病が治癒するものではありません。と

胡麻麦茶の科学的根拠

 胡麻麦茶の有効成分は、「胡麻ペプチド(LVY)」と呼ばれる成分です。

 この胡麻ペプチドは、人間の血圧を調節している「レニン−アンギオテンシン−アルドステロン系」というシステムの途中のアンギオテンシンⅠ変換酵素を阻害する作用があり、血圧を下げる効果があるとのことです。このアンギオテンシンⅠ変換酵素(ACE)は、高血圧を下げる薬のターゲットとなり、ACE 阻害薬という血圧を下げる薬は実際に病院などで処方されています。

 高血圧のモデルラットにおいて、胡麻由来のペプチドがこのACEを阻害してい血圧降下作用を示したという論文が出ています。2)

効果を示した論文を分析!

 トクホは、実際に人間に投与して効果を示さないと許可がおりません。

 胡麻麦茶では、2つの研究で効果が示されたことで認可がおりています。実際に効果を示した論文を見てみましょう。

研究1

  • 対象: 正常高値および軽症高血圧者89名 (男性:44名、女性:45名)
  • 介入: プラセボ あるいはゴマ蛋白質分解物を125 mg、250 mg、500 mg配合した茶飲料を用いた
  • 検証方法: 単盲検並行群間比較試験。2週間の事前観察期間の後、対照飲料あるいは被験飲料を1日1本4週間摂取させ、血圧降下作用を検討した。
  • 結果: 摂取4週間後に、対照飲料摂取群に比べ、被験飲料500 mg摂取群では収縮期血圧の低下が認められた
文献3)より引用

単盲検試験

 この研究は、単盲検試験と呼ばれる方法を取っています。これは、研究対象者は自分が偽薬なのか胡麻ペプチドが入ったお茶なのかどちらを飲んでいるか分からないが、血圧を測定したりする研究者側はその人がどちらの群に割り付けられているかは分かった状態で研究を行っています。効果を測定する人が、被検者がどちらの群か分かった状態で測定をすると「この人は、胡麻ペプチドの人だから血圧を低めに見積もろう」ということが出来てしまいます。これは、意図的ではなくても不正やバイアスにつながるのでふさわしくありません。

水銀式血圧計を使っている

 この研究の本文を読むと水銀式の血圧計を使っています。この方法だと血圧を測る人が、聴診器で血管の音を聞きながら血圧を測定します。もともとは、この方法が血圧測定のゴールドスタンダードでした。しかしながらこの方法は、上で述べた単盲検だと血圧測定でずるが簡単にできてしまいます。

 自動式血圧計なら血圧をごまかす事はできませんが、この水銀式血圧計では人間が血管の音(コロトコフ音)がなり始めたときと終わり始めたときの目盛りを読むのでわざとでなくても誤差が出やすいです。

 実際に研究のデータを見てみると、参加者の血圧の測定結果のばらつきがあまりに少ないことが不自然です。各群で50名程度の血圧を測定していますが、その日の血圧なんてばらつきがあるのが当然なのですが人数がそこまで多くないわりに測定値のばらつきを表す標準偏差が少ないのが不自然です。

4週目で急に血圧が下がっている

 研究開始3週目まではどの群もキレイに血圧が148前後だったのにもかかわらず4週目に急に250mg群と500mg群で血圧が下がっています。しかもやはりばらつきの指標である標準偏差が少ないのです。通常どんな薬でも効果がある人とあまりない人がいるので、たとえ効果があっても結果のばらつきは大きくなるものなのですが、この研究ではこのばらつきを示す標準偏差が異常に小さいのが不自然に感じます。

研究2

  • 対象:正常高値および軽症高血圧者72名 (男性:38名、女性:34名) 。
  • 介入方法: プラセボあるいはゴマ蛋白質分解物を500 mg配合した茶飲料を用いた
  • 検証方法: 二重盲検並行群間比較試験。2週間の事前観察期間の後、対照飲料あるいは被験飲料を1日1本12週間摂取させ、血圧降下作用を検討した。
  • 結果: 被験飲料摂取群は対照飲料摂取群に比べ、摂取6週後および10週後に拡張期血圧の低下が、摂取12週後に収縮期血圧および拡張期血圧の低下が認められた 。 
文献4)より引用

二重盲検試験

 こちらは研究1とは異なり、血圧の測定者側も相手がどちらのお茶を飲んでいるのか分からない状態で血圧測定を行っているのでズルはできません。

 そしてこちらの研究では自動式血圧計を使っているためやはり血圧の値をごまかすことはできません。 そして研究2では、血圧のばらつきを示す標準偏差が10前後に開いています。これを比較すると研究1の標準偏差がすべて1.5前後ととても小さい値だったのがいかに不自然かわかります

効果が大きすぎる!?

文献4)より引用

 この研究では、さっと読んだ限りは方法に不自然な点もなく、不正ができる余地も少ないように思います。しかも血圧が10mmHg以上下がっていて効果が絶大です。

 この血圧が10mmHg下がるというのは、薬に匹敵します。 逆にこんなに効果があるのは不自然に感じてしまいます。

 しかもお茶を飲むのを辞めた後に血圧がやはり上昇傾向となっており、胡麻ペプチドの効果があることを後押しする結果となっています。

結果の解釈や考察がお粗末?

 この研究の結果をよく見ると悪玉コレステロール値が介入群で上昇していたり、体重や体脂肪率にも差が出たりしています。

 これを「基準値内での変動なので関係ない」「責任医師が介入とは関係ないと判断した」などと記載されています。

 基準値内であろうが、LDLが上昇傾向であればそれはなぜなのか考えるべきだし、統計学的に有意差がついた測定値があればそれも理由を考えるべきなのに「医師が関係ないと判断した」なんていうのは科学論文としてお粗末すぎる話です。その理論で言えば、医師が関係あれば関係があり、関係ないといえば関係ないということになってしまい、客観的なデータとって解析するという科学研究の本質を踏みにじっています。

まとめ

 胡麻麦茶には、たしかに血圧が高めの人の血圧を下げる効果を示した論文が存在する

 しかし、1つ目の研究には手法に不正を行う余地が残されていてかつ、測定値のばらつきが不自然に少ないという問題点がある。

 2つ目の研究は、手法には問題がなく、一見すると血圧の効果を下げる効果が絶大である。

 しかしながら今回科学的根拠を検証してみて、不思議に思った点がありました。

胡麻麦茶の効果をめぐる3つの謎

  • 研究結果を掲載している雑誌が限られている
  • 今回紹介した論文以外に研究報告がない
  • 効果が絶大なのに薬になっていない

研究結果を掲載している雑誌が限られている

 この胡麻麦茶の効果を示した論文は2つとも 「健康・栄養食品研究」という日本の科学雑誌である。この雑誌を出しているのは、公益財団法人 日本健康・栄養協会という団体で表向きは「公益財団法人 日本健康・栄養食品協会は、国民の「健康な食生活」を支えることを目的に、厚生労働大臣の許可を得て、1985年に設立された公益法人です。私たちは、健康補助食品の安全性を確保し、内容の正しいものを自由に選択、提供できるよう、環境整備に努めています。」とHPに書いてあります。

 しかしこの協会は、多くの食品会社が会員としてお金を出している団体です。完全な第三者機関と言えるのかは疑問が残りますし、トクホ関連の論文を多く掲載しているので加盟している会員企業の研究成果を論文として世に出すための団体なのではないかと思ってしまいます。

 しかも研究2のところで述べたように論文の質は決して高いとは言えないので、ちゃんと査読(第三者が論文の内容をチェックする仕組み)が機能しているのか疑わしいです

今回紹介した論文以外に研究報告がない

 今回他に研究報告がないのか医学論文のデータベースで調べてみましたが、このラットの研究1つと人を対象とした日本語の論文2つしか見つかりませんでした。

 トクホとして承認されてからは論文が一つも出ていないようですし、他の研究機関からは全く研究されていません。もちろん特許の関係はありますが、他に1つも論文がないというのはいくらなんでも不自然です。トクホのために論文を作った感が否めません。。。

 本当に効果があるのであれば、英文で世界に向けて論文を発表して他の国でも売出すことは考えていないのかも不自然に思いました。高血圧は世界中に患者がいて、世界的な健康問題なので毎日お茶を飲むだけで血圧が下がるなら画期的な治療ですし、企業としてもとても大きなマーケットになると考えられます。

効果が絶大なのに薬になっていない

 上でも書きましたが、3ヶ月で血圧を10mmHg下げるというのは降圧薬に匹敵する効果です。

 薬として売り出すこともできますし、製薬会社に特許を売却することもできると思います。なぜそれをしないのでしょうか。

 他に研究報告がないことと合わせるとやはり裏があり、薬にするのに必要な質の高い研究でも示せるような効果がないのではないかと邪推してしまいます。

結局の所 

 最後のは少し陰謀論的な話になってしまい個人的な見解になっていますが、科学者の端くれとして不自然に感じざるを得ませんでした。

結局の所、健康食品にせよトクホにしろ本当にそんなに効果があるなら薬になっていると思います。

 何を信じるかはあなた次第ですが、血圧が気になるなら高いお茶を飲むよりもすることがあると思います。

参考文献

  1. サントリー胡麻麦茶ホームページ
  2. Antihypertensive Effect of Angiotensin I-Converting Enzyme Inhibitory Peptides from a Sesame Protein Hydrolysate in Spontaneously Hypertensive Rats
  3. 健康・栄養食品研究. 2004:7(1);49-64.
  4. 健康・栄養食品研究.2006:9(1);1-14.

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